浦和地方裁判所 平成3年(行ウ)23号 判決
原告
彌永光代(X)
(ほか一五名)
右原告ら訴訟代理人弁護士
大口昭彦
同
秀嶋ゆかり
同
佐竹俊之
同
川内律子
被告
埼玉県知事(Y) 土屋義彦
右訴訟代理人弁護士
田島久嵩
右復代理人弁護士
佐世芳
右指定代理人
北川秀樹
同
飯田健一
同
横山礼子
同
中村孝和
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 本件土地開発行為許可処分取消しの訴えの適否
都市計画法第二九条の規定に基づく処分(開発行為の許可)に対する審査請求について裁決をする開発審査会は七人の委員によって組織され(同法第七八条第二項)、委員は法律、経済、都市計画、建築、公衆衛生又は行政に関しすぐれた経験と知識を有し、公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者のうちから、都道府県知事が任命する(同条第三項)。これによれば、開発審査会は、都市計画に関するさまざまな分野の専門家によって構成され、したがって、それ自体において相当程度の専門技術的能力を備えていると考えられるが、更に、開発審査会は、その権限に属する事項を行う過程において、行政不服審査法の定めるところに従い、しかるべき専門家に必要事項についての鑑定を求めることにより(同法第二七条)、必要に応じて自らの能力不足を補うことも可能である。そうであるとすれば、県審議会の委員中に土木工学の専門家がいないからといって、原告らが本件土地開発許可処分につき審査請求をした場合、県審査会に本件開発行為における排水・防水計画等をチェックする能力が欠けていると断定することは困難である。原告らは、埼玉県においては、開発行為が都市計画法第三三条第一項第七号、第九号等に規定する具体的な基準に適合しているかどうかの評価は、環境アセスメント手続に委ねられていると主張するが、埼玉県において開発行為の許可処分をするについては環境アセスメント手続を経ることになっているとしても、県審議会は、もとよりその結果も審査の対象とし、これに何らか問題が存するときは、独自の調査をすべきであり、環境アセスメント手続に委ねて、自らの権限行使を怠ることなど、とうてい許されるところではない。この点について、県審査会はただ当局がした処分を追認するだけの機関に堕しているとの原告らの主張は、県審査会による審査の現状についての原告らの側からする評価をいうものと解され、これを本件土地開発行為許可処分取消しの訴えにつき審査請求を経ていないことに正当な理由があるかどうかの判断の資料とするのは相当ではない。
〔証拠略〕によれば、鳩山町住民による別件のゴルフ場開発許可処分に係る審査請求で問題になったのは埼玉県環境影響評価に関する指導要綱及び埼玉県のゴルフ場等の造成事業に関する指導要綱違反の点であることが認められるが、本件土地開発行為許可処分については、原告らは右各指導要綱違反だけでなく、都市計画法第一条、第二条及び第三三条違反の点も問題としており、本件各許可処分全般につきすでに県審査会の結論が示されているということはできない。原告らの主張のなかには県審査会に対する審査請求が時間の浪費となることを指摘する部分もあるが、原告らは、行政事件訴訟法第八条第二項第一号により審査請求があった日から三か月を経過しても裁決がないときは、裁決を経ないで訴えを提起することができるのであるから、右主張はそれ自体失当である。
以上のようにみてくると、原告らが本件土地開発行為許可処分につき審査請求を経ないことには行政事件訴訟法第八条第二項第三号にいう「正当の理由」があるとは認め難く、原告らの本件訴えのうち本件土地開発行為許可処分の取消しを求める部分は不適法な訴えというほかはない。
二 本件林地開発行為許可処分取消しの訴えの適否
行政事件訴訟法第九条は取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁昭和五三年三月一四日第三小法廷判決・民集三二巻二号二一一頁、最高裁昭和五七年九月九日第一小法廷判決・民集三六巻九号一六七九頁、最高裁平成元年二月一七日第二小法廷判決・民集四三巻二号五六頁参照)。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁平成四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁)。
そこで、以下、右のような見地に立って、原告らが本件林地開発行為許可処分の取消しを訴求する原告適格を有するかどうかについて検討する。
森林法は、第一章として「総則」を、第二章として「森林計画等」を、第二章の二として「営林の助長及び監督」を、第三章として「保安施設」を、第四章として「土地の使用」を、第五章として「森林審議会」を、第七章として「雑則」を(第六章は削除)、第八章として「罰則」を置き、全体で二一三条に及ぶ法律であるが、その第一章総則第一条において、同法の目的を「森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資すること」と規定しているのであり、これからすれば同法が個人の権利ないし具体的利益を直接保護するものでないことは明らかである。
もっとも、同法第二章「森林計画等」中の第一〇条の二(開発行為の許可)第二項各号は、当該開発行為を不許可とすべき事由を定めているが、その各号中に「当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させる恐れがあること」(第一号)、「当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること」(第一号の二)、「当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること」(第二号)、「当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること」(第三号)を掲げているので、森林法は当該各号にいう「地域」に関係する者の権利ないし具体的利益をも直接保護しているのではないかとの疑問が生ずる余地もないではない。しかしながら、一方で、同条は、その第五項においては「(開発許可の)条件は森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限のものに限り、かつ、その許可を受けた者に不当な義務を課することとなるものであってはならない」と規定して、同条の許可が公益的観点からされるべきものであることを明らかにしているのである。
一方、同法第三章「保安施設」中の第二五条は、「水源のかん養」(同条第一項第一号)、「土砂の流出の防備」(同条同項第二号)、「土砂の崩壊の防備」(同条同項第三号)等の目的を達成するため必要があるときは、森林を保安林として指定することができるとしており、この場合は、保安林の指定に「直接の利害関係を有する者」は保安林の指定又は指定解除を農林水産大臣に申請することができ(同法第二七条第一項)、また右の者が意見書を提出して農林水産大臣に対し異議を申し出ることができると規定し(同法第三二条)、保安林については一般的公益と並んで個々人の個別的利益をも保護していると解されるが、林地開発行為許可制度についてはそのような個別的利益保護の規定がおかれておらず、このことからすれば、森林法においては、開発行為の許否は専ら森林が有する土地に関する災害防止等の公益的機能の保全の観点からされるのであって、森林法は前述の保安林の指定及び解除のように同法に明文の規定においている場合以外には直接にこれが帰属する個々人の個別的利益を保護するものではないと解するのが相当である。
そうであるとすれば、原告らが個人として有すると主張するその主張の権利若しくは利益は森林法によって「国土の保全」等の目的が実現されるに伴って生ずる一般的公益が保護される結果として確保される反射的利益にとどまり、これを侵害されるとする原告らは、本件林地開発行為許再処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するとはいえず、原告らの本件訴えのうち本件林地開発行為許可処分の取消しを求める部分は当事者適格なくして提起されたものであるから不適法というほかはない。
三 よって、原告らの本件各訴えは不適法としてこれを却下することとする。
(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 中野智明 中川正充)